メンタルヘルスの問題

過労死や過労うつ,といった言葉をご存知ですか

 

 

 

 

自分の会社には縁が無いこと,と思いがちですが,近年,従業員がうつ病などを発症して,使用者にその責任を追及される事案が増えています。

 

精神疾患と労災

従業員がうつ病になると,労災になる場合があります。

 

業務による強い心理的負荷が生じた場合や,長時間勤務など,職務に起因して精神疾患を発症した場合には労災認定されることがあります(参照,労基署「心理的負荷による精神障害の認定基準」)。また,過労などによる精神障害が原因となっての自殺というケースもあり,この場合は,遺族から会社の責任を追及される場合もあります。

 

そのため,会社としては,従業員のメンタルヘルスに配慮する必要があり,特定の人に過重に業務が集中しているなどの場合には,仕事の振り分けを配慮する必要があります。

 

精神疾患と民事賠償

会社なんだから従業員が働くのは当たり前だ,とお考えの社長さんは多いと思います。

 

それはご指摘の通りなのですが,だからと言って無制限に無理な働き方を押し付けることはできず,会社は従業員の身体や生命を保護するように配慮してやる義務を負っています。これに違反し,過重労働などによる精神的負荷を与え続けた場合,会社に損害賠償義務が生じるというケースがあります(最判昭和59年4月10日。川義事件等)。

 

もちろん,同じ業務を行っていても従業員が病気になるかどうかというのは,それぞれの資質にもかかわってきますから,すべての事案で会社に賠償義務があるとまでは言えません。

 

しかし,今般の法律改正により,平成27年12月から,会社は従業員に対し過度なストレスを与えていないか,定期的なストレスチェックを行うよう,義務付けられることになりました。(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/index.html

 

このように,社会的にも従業員のメンタルヘルスに対する責任は会社に大きく負わされていると言えます。

 

にもかかわらず,過重労働を強いた結果として過労鬱や自殺などの事故に発展した場合,会社が負うべき責任の範囲は非常に大きくなり得ます。

 

職場で鬱の人が出たら?会社が行うべき対応

うつ病を含むメンタルヘルス不調の従業員がいる場合,会社としては,彼の症状が重くならないよう,適宜の配慮をする必要があります。また,本人自身はメンタル不調を認めたがらなくでも,この種の病気は自覚症状が無い場合も多くありますから,同僚や上司の目で見てメンタル不調が疑われる場合にも,以下のような対応を行う必要があります。

 

①本人との面談

まずは,職場の上司など責任ある立場の方で,当該従業員と面談を行うべきです。そのうえで,本人のメンタル不調の現状を把握します。可能であれば,主治医の診断書を取り付けるとか,産業医に面談を行わせて意見を取り付けるなどすることもあるでしょう。

 

②配置転換

本人との面談や診断書の記載内容からして,これまでどおりの職に就かせることができないと判断される場合があります。

 

この場合は,まず,現在よりも精神的・肉体的に負担の軽い部署への配置転換など,業務の負担を軽減する手立てを講じるべきです。

 

現在の職務による負担が大きく,これが原因となってメンタル不調につながったのだと知りながら,これまでどおりの負担の大きい職務につかせ続けたとなると,事後的に,会社が損害賠償請求をされるなどのリスクが高まります。

 

③休職命令

配置転換などの措置によっても職に就くことができないとか,出社すること自体が難しいという場合には,休職命令を出すことになります。そのうえで,医師による診断,治療を継続してもらうようにします。

 

症状が回復すれば復職命令を出すことになりますが,実際には,まだ回復しきっていないのに本人が復職を希望するとか,すっかり良くなっていても仕事に出るのを嫌がるなどといった場合も考えられます。会社としては,主治医による診断書や産業の意見,本人との面談の結果などを総合的に判断し,職務に耐えられるかどうかを判断することになるでしょう。

 

④解雇

休職期間が満了しても症状が回復しない場合には,解雇を検討せざるを得ません。

 

ただし,メンタル不調を発症したからといってすぐに解雇だと言い渡したとしても,法律上は無効となる場合があります。本人の症状によって,医師による治療の状況や配置転換などの措置の有無などによって,やむを得ない解雇だったと言えるか(解雇に合理的な理由があるか)が,解雇の有効性の判断要素になってきます。

 

なお,業務上の精神障害は,法律上,解雇ができない場合となります。その意味でも,従業員が業務によってメンタル不調を発送しないよう,日ごろから気をつけておくことが,会社の利益を守ることにつながるのです。

 

会社は何に気をつければいいのか

メンタル不調にならないようにと言っても,具体的には,どこから手を付けていいか分からないことが多いものです。もともと仕事なんて辛いものですし,嫌な仕事でも頑張って働く姿こそ美しい,という昭和的な感性をお持ちの方も,まだまだ多いでしょう。

 

ですが,仕事をするうえで,不必要に従業員をストレスにさらす必要はありません。むしろ,ストレスフリーな環境でのびのびと元気に働かせることで,従業員の生産性も上がり,会社の収益も伸びることが期待できます。

 

会社としては,職場環境が適正になるように凡事徹底をするという事に尽きるのですが,具体的には,上司によるパワハラやセクハラと言ったハラスメントがあれば直ちにやめさせること,職場の人間関係などに問題があれば適宜調整や職場の移動など試みる事,過重な残業が無いように労働時間を管理することといった,職場環境の整理に努めることが重要でしょう。

 

そのうえで,①急に遅刻が多くなったとか②細かいミスが連続し,注意散漫である③急に痩せた,クマができて顔色が悪いなど,メンタル不調のサインが出てきた従業員がいたら,たとえ本人がメンタル不調を否定しても,まずは本人との面談や医師による意見を取り付けるなどするべきでしょう。

 

単に,上司や社長が「飲みニュケーション」を試みてお酒の席につき合わせるとか,「頑張れ頑張れ」と言ってみても,なにも解決しません。むしろ,こういった対応によって本人にプレッシャーを与えることになり,症状の悪化につながる危険もあります。真面目で会社にとって有用な人ほど,メンタルを崩しやすい傾向にありますから,会社としてはぜひ従業員を大事にしてあげてほしいものです。

 

メンタルヘルス不調従業員の対応は弁護士へご相談ください

このように,メンタル不調になった従業員の対応は,非常にナイーブで難しい問題を含みます。どのタイミングで休職させるのか,いつ復職させるのか,万が一会社の責任を追及されたらどうするのか。周りの従業員へ与える影響も,少なからずあります。

 

このようなときこそ,労働事件の専門家である弁護士にご相談ください。当事務所代表弁護士は労務管理や労働事件に精通しており,メンタルヘルス,休職や復職の問題を処理した経験も豊富にありますので,会社の利益を守るために何が必要か,現実的で分かりやすいアドバイスをご提供いたします。

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