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残業代コラム~残業代の裁判対応~

弁護士の平山です。残業代の話題がにわかにブームなので始めたコラムですが,今回で最終回です。

実際に残業代の裁判になったとき,会社としてはどう動けばいいのか,具体的なところで見ていきましょう。

裁判を起こされたら

まずは,訴状の中身を確認しましょう。

訴状には,裁判における相手方からの請求の内容が記載されています。その意味では,まずは相手が何を言ってきているのかという,話のスタートラインですので,その中身をじっくりと吟味したいところですが・・・実際には訴状の記載というのは非常に複雑です。もちろん私たち弁護士が見れば内容を理解するのは簡単ですが,お世辞にも,一般の方が見てわかりやすいとは言えない書面になっています(裁判所も役所なので,この辺はしかたないですね)

まず会社で確認すべきポイントをあげるとすれば,この2点でしょうか。

・請求されている金額

・訴訟の期日と答弁書提出期限

いきなり訴状が届くと,だいたい,びっくりします。

ですが,訴訟を起こされたからと言ってもその中身がどのようなものか見極めて対応すれば,今からでも会社を守ることは十分に可能性はあります。

さはさりとて,今からどのくらいの裁判になるのかどうか,見てみないことにはわかりません。

さて,まずは訴状の1ページ目(場合によっては表紙をめくって2ページ目)を見てみましょう。

ここに,「請求の趣旨」と書いてある欄があります。

これをよむと,ほとんどの一般的な訴状には,こう書いてあります。

 1 被告は原告に対し金〇万円を支払え

 2 訴訟費用は被告の負担とする

請求内容によっては,もう少し複雑に書いてある場合もありますが,基本的には,①金銭的な請求内容と②訴訟費用の負担について書かれています。(解雇した元従業員からの請求だと,もう少し複雑なことが書いてあって,「原告と被告の雇用契約上の地位を確認する」というような書き方がしてあることもありますが,これは別稿で改めて。。。)

 ここの,1の「被告は原告に対し金〇万円を支払え」というのをみれば,いったいこの裁判がどのくらいの規模の裁判なのか,この従業員が御社に何を求めているのか,その請求内容が分かります。

たまに誤解をなさる方がいますが,ここに書いてあるのは,あくまでも現時点で従業員が主張している金額です。まだ裁判所がこれを認定したわけではありませんし,その請求の中身が正しいかどうかは全く未確定です。訴訟戦略的に,通常に認められうる水準よりも多めの金額をここに書いて提訴してくるというやり方もありますので,この時点でこの主張が立たしいかどうかは,そのあとの「請求の原因」という項目を読んで検討します。

請求の原因とは?

大体の訴状には,「請求の原因」という項目が書いてあります。

ここには,上記の金銭請求を根拠づける事情を書いてあります。

たとえば残業代請求なら,雇用契約の時期や内容,給与額や労働時間の算定の結果などが書いてあるでしょう。

訴えの段階で,証拠をつけて主張がなされているはずなので,余力があれば,相手の言い分が客観的な証拠に照らして正しいのかどうか,検証してみればよいでしょう。ただ,弁護士に任せるという場合には,この部分は弁護士の目で確認をしてから準備をしても良いかもしれません。請求の趣旨は非常に長く書いてありますし,法的な争点として何が大事なのかというのは,けっこう難しい問題も出て来ます。もちろん資料収集は早い段階から行っていただければそれに越したことはありませんが,訴訟対応としては,法律的に必要なポイントに絞って準備をするほうが効率的でしょう。

締切はいつ?

さて,主張された内容に対して,当方の主張はどうかを述べなければなりません。これを「答弁書」という書面で裁判所に提出します。

答弁書には主に,請求に対して認めるか争うか,請求の原因に記載されている事実関係が正しいか間違っているか,あるいは知らないか・・・このあたりを具体的に述べていくことになります。

ですが,ここまでくると,さすがに会社の方だけで対応するのはやや骨が折れるのではないかと思われます。

そこで,この答弁書の提出は,基本的には弁護士にお任せいただくことになるでしょう。

そうしますと,何をおいても確認が必要なのは,その「提出締切」がいつかという点です。

裁判は,第1回期日を,指定し,その1週間前ころを答弁書提出期限と指定したうえで呼び出しが行われます。提訴された以上,御社はこの期日までに答弁書を提出し,法廷への出頭など訴訟対応を行わなければなりません。

ここで,弁護士にお任せいただくという場合にも,この締切自体が伸びるということはありませんから・・・たとえば期日の当日になって弁護士に相談となったというような場合だと,もう手続きに間に合わなくなってしまいます。また,答弁書を提出せずに訴状を争わないということになると,基本的には原告の言い分がすべてそのまま認容されてしまう,記載内容通りの請求が認められてしまうという事態が生じかねません。

そのため,まずは答弁書の提出期限を確認したうえで,それまでに弁護士との相談予約を入れる必要があります。

どの弁護士の頼めばいいの?

弁護士との面談予約と言っても,だれでもいいという訳ではありません。

最近はインターネットなどで法律事務所を探すのもある程度便利になってきましたが,相談申し込みをして即日や2,3日での予約が取れる事務所ばかりとは限りません。また,弁護士にはある程度の業務取扱分野があって(病院で内科や外科,小児科と専門が分かれているのと同じイメージですね),なかには交通事故しか扱わない,相続問題しか扱わないとか,債務整理や過払い金しかできないといって労働事件は断ってしまう事務所もあるようです。(また,特定の事務所の悪口は言わない趣旨ですが,なかには,ほとんど労働事件の経験やノウハウがないのにむやみに受任してしまうとか,ほとんど弁護士との面談すら実施しないので法的な整理ができないという,極めて問題のある事務所も世の中に存在すると聞きます。相談に乗ってくれたからどこでもいいというのではなく,弁護士が直接対応してくれているか,労働事件の処理経験があるかどうか,きちんと法的問題点を理解できているか,訴訟の方針が立てられるかどうか・・・このあたりで弁護士を見極めなければなりません。)

 そして,今回の訴訟の中身をよく検証してもらったうえで,必要な書類や社内資料などを提供しましょう。

裁判戦略。落としどころをどう考えるか

裁判なので,勝つか負けるか・・・というのが一般的な話ですが,もうひとつ結論としてありうるのは,「和解」すなわち訴訟手続き中の示談で終わらせるという方法です。

たとえば相手が500万円の請求を起こしてきていても,実際には500万円まるまるの請求が認められるとは限りません。一方で当方としても,全く請求額をゼロとまで落とすのは難しいかもしれないし,逆に請求が全部認められても支払いが実際問題出来ない・・・このように,最後まで裁判を続けて判決となっても,お互いにリスクもあります。

このような時に,早い段階で,ある程度の金額やそれなりの支払いペースを設定して約束することで解決するという,「和解」という解決方法もあります。

訴状や証拠関係から会社にとって分が悪い,裁判で全部負けてしまうと会社にとっての打撃が大きすぎるというケースの場合,できれば請求額を減額したうえでの和解を目指すほうが,最終的には会社の利益を守れるという場合もあるでしょう。

また,訴訟自体は非常に長引くケースも多いので,和解で終わらせるというのは早期解決を勝ち取るというメリットもあります。

このあたりの判断は,まさに,訴訟がこのまま進めば勝てるか負けるかの見極めにもよってきます。また,和解案としてどのくらいの支出が可能かどうかにもよるでしょうから,依頼する弁護士とよく打ち合わせをしておくことが肝要です。

いざ,裁判!

さあ,方針を決めたら,いよいよ裁判です!ドラマのような法廷での論戦が展開される・・・と思いきや,そのようなことはされません。事前に提出された書面に基づいて双方の主張を確認し,次回期日を設定して反論や立証計画を決めるという具合で,期日はだいたい1回当たり5分もせずに終わります。裁判所への移動時間のほうが長いというのはよく言われるところです。

第1回期日には,答弁書だけ出せれば欠席するということもできますが・・・やはり裁判所への出頭は,時間もかかりますし,精神的な負担も大きくなりがちです。

もし弁護士にお任せいただけば,裁判所への出頭は弁護士のみで行えますから,御社には期日後に適宜に報告が上がってくるのを待ちましょう。

また,期日はだいたい月に1回ずつのペースで行われます。となると,だいたい,訴訟対応のために月に1回くらいは弁護士とのミーティングなどを行い,方針のすり合わせなどの打ち合わせが必要になってきます。

さあ,あとは,いよいよ裁判を戦っていくことになります。

訴訟なので勝つこともあれば負けることもありますが,最大の目的は,御社の利益を守り会社を存続させること,です。そのためにどのような訴訟戦略をとるのがいいか,どのあたりを和解水準と見極めて対応するか,担当弁護士とよく協議しながら,手続きを進めていきましょう!

むすび

プチ連載コラムとして執筆してみた「残業代コラム」は今回で最終回です。

残業代請求の事件は,構造自体はシンプルだともいわれることもありますが,どのタイミングでどのような対応をするのが会社にとって利益を最大限守れるか考えてみると,なかなか,実際には,いうほど簡単ではない場面も出てくるわけです。

会社と従業員の紛争は,「紛争化した時点で半分負け」というのが私のポリシーです。できれば紛争になる前の段階で,しっかりとワークルールを決めて,皆が納得できる労働環境を整えるのが経営者の役割なのですが,実際問題そんなに簡単にはいかず,一つずつ問題点を解決していかなければならないのも事実です。

府中ピース・ベル法律事務所では,労働問題を中心に中小企業の企業法務・法律顧問業務を広く手掛けています。地元府中市をはじめ,広く多摩地域・東京都内の企業様のご支援を通じ,地域の会社が活性化して市民賀詞為替に暮らせるようにとの理念で,この分野の業務を手掛けています。

経営問題や紛争の際に相談できる弁護士がいない,顧問弁護士はいるけどあまり気軽に相談しにくい・・・というようなご経験をお持ちの経営者様,一度,府中ピース・ベル法律事務所にご相談ください。御社のパートナーとして企業の発展に貢献できる日を楽しみにしています!

2017・9・20 府中ピース・ベル法律事務所 弁護士平山諒

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