府中ピース・ベル法律事務所 > 新着情報 > ブログ > ブログ更新しました【残業代について 2】

ブログ更新しました【残業代について 2】

PBコラム残業代シリーズ第2弾 ~残業代請求と初動~

さて、実際に会社が従業員から残業代請求を受けた場合の初動を見ていきましょう。

残業代問題は他人ごとではない!

ここ数年は「サービス残業を強いるのはブラック企業だ」という認識が広がってきましたし、少し探せば「残業代は取り戻せる!」「サービス残業をしているなら弁護士に相談」というような記事が、インターネット上を少し見ただけでも飽和しています。

私も実際に、スマートフォンでインターネットをしていると、「未払いの残業代を取り戻せます」と焚き付けるような法律事務所の広告記事を、よく目にします。

あなたの地域にも、残業代請求を取り扱い法律事務所というのは、きっと存在するのではないでしょうか。最近は残業代請求訴訟を専門商品にする弁護士も出現するなど、いつ未払い残業代の請求が来ても不思議ではない時代です。

このコラムがネタにしている宅配便会社も、近時報道があったように、非常に高額の残業代の支払いを強いられることとなり、金銭的なものはもちろん企業イメージなどで受けた損害ははかり知れません。

一部報道では、通信販売の取り扱い案件が急増したとか、近時の人手不足などが原因という、同情しうる事情もあるようではありますが、この企業規模からいえば、未払いの残業代問題が発覚した場合に会社が負うべきダメージも莫大なものになりうると、容易に想定できたはずです。

できれば、残業代を生じさせないような働き方の仕組みづくりという、「紛争化する前段階での準備」さえしておけばよかったと思いますが、様々な事情で、きれいごとは通用しない現場というのも、世の中には多数存在します。

さて、それでは実際に、もし残業代請求がされたとき、どのような初動を取れば、会社にとってコストを最小限に抑えることができるのか、経営者が慌てずに行うべき方策について、具体的に解説してみたいと思います。

前項で解説した通り、残業代の請求には①本人からの請求②代理人からの請求③裁判所からの請求の3段階があります。なので、段階別に、会社として取るべき方針を検討してみましょう。

~①本人から残業代の請求があったとき~

従業員「社長、すみませんがお話があります」

社長「なんだい、改まって」

従業員「私、この会社で働き始めてから5年たちますが、いままで残業代というものをもらったことがありません

社長「そうだね、確かに当社は、従業員の皆さんに残業代を払っていないね」

従業員「私などは特に、忙しい時期には夜12時を超えて働くことや泊りがけでの勤務になることもあり、非常に忙しくしていますが、これで基本給だけ頂戴していても、なかなか、割に合わないというか、報酬が働きに見合っていないと思うのです」

社長「ほう、それで」

従業員「そこで、突然ですが、私がこれまで勤めた時間の残業代を請求します。私が計算したところだと、5年間で500万円以上は残業代があるはずですから、すぐに払ってください。でなければ会社を辞めて、裁判をします」

社長「・・・」

 

さて、いかがだったでしょうか。いかにもありそうな、中小企業の社長室での一場面を再現してみました。

500万円払わないと弁護士に頼んで裁判をすると従業員から宣言されているわけですので、訴訟経験のない社長さんからすると非常に驚き、仕事どころではなくなるわけです。

このような時、まず社長としては何をしなければならないのでしょうか。

実はいろいろ考えるべきポイントはあるのですが、最低限とるべき初動としては、以下のようなところでしょうか。

 1 従業員の要求を正確に把握する

まずは、従業員の要求内容を正確に把握したいと思います。

残業代の請求、というところだけピックアップすれば一見して話はシンプルですが、具体的にはどのような要求を持っているのか、必ずしも明らかではないケースもあります。

たとえば、要求する金額がいくらなのか、そしていつまでに支払ってほしいというのか、不明瞭な請求をしてくることもあるでしょう。また、なかには、残業代をくれなければ辞職すると言っておきながら、実際意図しているのは金銭要求というよりも早期の円満退職であるとか、円満に退職できるのであれば敢えて、いままで世話になっていた会社に対して無茶な要求はしたくないという従業員もいます。あるいは、悪意を持って会社に打撃を与えるため、あえて高額の請求に及んでくる悪質な従業員というのも、存在するかもしれません。

そこで、まずは、従業員の要求内容が何なのか、正確に把握することを目指します。

口頭でのやり取りでわかりにくければ、書面での提示を求めるというのも手かもしれません。ただ、この種の紛争というのは、書面化したら後には引けない段階に進んでしまうということも往々にしてありますから、できれば、まずは面談の中で聞き取りたいところではあります。

 

2 回答を保留し、会社として検討をすることを伝えましょう

初動として肝要なのは、「回答を焦らないこと」です。たしかに残業代を払わないと訴えるとか言われると、その場でなんらか誠意のある回答が必要なのではないかとか、すぐに支払う約束をしないとおおごとになってしまうのではないかと焦ってしまいます。

 しかし、実際にはこの後見るように、会社がいくらの支払い義務を負っているのかの精査は必要ですし、実際問題キャッシュフローの関係で支払い可能かどうかも、慎重に検討をしなければならない問題です。

ある程度の勤務期間=社会人経験のある人なら、いくらワンマンの会社とは言え社長のその場の一存で決められないことがある、というくらいのことは当然理解しています。会社として誠実に対応をするから少し回答を待ってくれ、といい、回答を先延ばしする勇気を持ちましょう。

逆に、会社としての検討が必要だから1週間~2週間ほど待ってくれというくらいの素朴な要求に対して一切聞く耳を持たないという強硬な態度の従業員であれば、どのみち訴訟になります。この場合は会社としても腹をくくって対応しなければならないのは変わりません。どちらにせよいずれ訴訟だとなれば、この当事者協議の段階で回答期間の猶予を申し出ること自体は、御社にとって増すリスクではありません。

最初から言い値を払って収めるという選択肢がある場合には別ですが、そうもいかないような場合には、ひとまず、会社としての検討期間を申し出ましょう。

 

3 正確な労働時間の確認

 さて、回答期間の猶予を取り付けて時間稼ぎをしている間に確認するべきは、何をおいても「タイムカード」です。

   これで何をするかというと、実際に勤務している残業時間と、これに対応して支払うべき残業代の算定です。

   仮に従業員が自分で計算して500万円の残業代があると言っても、どこまで正確なのか、まずは確認しないといけません。そして、残業代の計算というからには、なによりもまずは残業時間を把握できるような資料の確認が必要です。

そして、実際の労働時間の把握は、タイムカードで管理をするのが一般的です。最近はコンピュータのアプリケーションで出退勤を管理しているケースもありますので、これを参考にしてもいいでしょう。

なお、未払い残業代は、法律上過去2年分しか請求できません。それよりも昔の分は、消滅時効により権利行使が排斥できます。なので、タイムカードを探すときは、請求時から2年間、さかのぼりましょう。

なお、今後の交渉などが不安だという社長さんは、できればこの段階で顧問弁護士に相談をするか、府中市内で企業法務に注力している法律事務所(たとえば府中ピース・ベル法律事務所)に相談をしましょう。

 

4 就業規則や雇用契約書の確認と、実際の未払い額の算定

労働時間が明らかになったら、次は雇用契約や就業規則上のチェックです。

すなわち、所定労働時間を超えて残業をした場合の割増率や、給料の中ですでに支払われている残業代があるのではないかなど、実際の「未払い残業代の金額」を計算します。

事案にもよりますが、実際には「雇用契約」ではなく「業務委託契約」だったとか取締役としての職務従事だったから残業代が発生しないとか、毎月支払っている給料の中で残業代も含まれていた、というようなケースも、場合によってはあり得ます。また、「裁量労働性」や「みなし労働時間」でそもそも残業代が生じない雇用形態であるとか自主的に労働時間を決めて勤務できるなどの仕組みにしてある場合もあるでしょう。

このように、契約内容や会社の規則、そして法律の規定に照らして、実際問題いくらの残業代の支払い義務が生じているのか、まずは会社として把握する必要があります。経理担当者での算定が難しければ、弁護士や顧問社労士に給与計算をしてもらうことをお勧めします。というか、経理担当の従業員に残業代計算を命じると、この経理担当者からの残業代請求を誘発しかねないので、まずは隠密的に、実際の支払額のめどを立てましょう。

このあたりは、極めて高度な法律判断も含まれてくると思いますから、いろいろと不安な社長さんは、できればそろそろ、顧問弁護士か社労士に相談をしたほうがいいかもしれません。

府中ピース・ベル法律事務所では、残業代の計算や契約書、労働の実態からどのくらいのリスクが企業に生じているのかを判断する、「🄬労務調査士」の資格も取得しています。訴訟化した際のリスクも適切に見極めたうえで、企業のとるべき方針を定めます。

 

5 示談案・条件の提示

 さて、会社としての算定ができ、実際の支払うべき金額が出てくれば、これを基にして従業員に対して示談案の提示をしましょう。

たとえば計算上の支払い義務が200万円であったとして、会社の経営上支払えるのは100万円までであるとなれば、会社の事情を説明したうえで支払い額の減額交渉を試みるというのも手かもしれません。いずれにしても会社がつぶれてしまえば、従業員は残業代どころか失職の危機に直面するわけですから、その意味で非現実的な要求に拘泥しないというパターンも十分にあり得ます。

また、可能であれば、早期にある程度の金額を支払うかわりに、今回の支払い内容についてはほかの従業員や元社員など第三者に口外しないという約束を取り付けてもいいかもしれません。そうしないと、ほかの従業員からも次々に残業代請求が行われる恐れがあり、場合によっては会社が立ち行かなくなる可能性もありますから、そのような最悪の事態は回避しなければなりません。

場合によっては、今後の従業員の配置転換や、残業命令の量の見直しなど、職場の環境全体面を含めての包括的な解決案を探るという手もあるでしょう。

 いずれにしても、本人同士の直接の協議の枠組みの場合にはのちに出てくる弁護士介入後や訴訟段階に比べて、ある程度柔軟な解決策を探ることも可能になります。従業員としても、裁判で時間をかけるとか弁護士費用をかけるのに比べれば、ある程度のディスカウントをしても早期に解決することにメリットが見いだせるはずですから、条件交渉を試みる価値はあるでしょう。

なお、この時気を付けていただきたいのは、会社としての誠意を理解してもらうよう努めるべき、ということです。いまさらそんなシットリした話をされても・・・と思われるかもしれませんが、「会社の誠意がないと感じたから弁護士に相談をした」「早い段階で社長が頭を下げてくれていれば、私だってそんなに争いを大きくしたいわけじゃなかった」と考える従業員は、案外多くいます。労働の現場も最終的には人と人との関係なので、お金よりも「誠意」や「態度」といった、目に見えないものを重視する人も、一定の割合存在します。

・・・逆に、頭を下げても聞き入れない人もいますが・・・それは、言ってしまえばそれまでの人なので、条件交渉でうまくいなかければ紛争化・訴訟化した段階でこちらも全力で争うということで戦うことになるでしょう。この場合には、一刻も早く弁護士に相談してください。

 

6 交渉成立 OR 決裂

  残業代の額や支払時期、そして付随する条件の話がまとまったら、示談を取り交わしましょう。

書面に残さないというパターンもあるかもしれませんが、当事務所では基本的には、この手の交渉がまとまったら示談書を取り交わすようお勧めしています。でないと、何の費目でいくら支払ったのか、分からなくなってしまい紛争の最終的な解決にならないからです。

この際、示談書を取り交わす段階で、これでもって未払いの残業代や債務がゼロとなって解消されていることを確認するのが良いでしょう。

また、上にも述べましたが、残業代の請求や支払いがあったことなどを第三者に口外しないという約束を取り付けるのが良いです。

 

交渉が決裂した場合には、そう遠くないうちに従業員の代理人弁護士からの介入通知や、労働組合からの断交申し入れなどが届くと予想されます。こちらも、できるだけ早い段階で、労働事件に心得のある法律事務所に相談をしましょう。

 

 

さて、段階別にみる会社としての初動の一例をあげてみましたので、ご参考となさってください。

次回コラムでは、弁護士への委任を決断すべきタイミングや法的な紛争の場での対応について、述べてみます。

2017.07.24 弁護士 平山諒

(本コラムにある初動例は、中小企業を念頭において作成した一例であり、実際のすべての法的論点を網羅しているものではありません。本コラムの記述内容には万全を期しておりますが、実際の事件には様々な事情や考慮要素が含まれていますから、本記事・当HPの内容がすべての事件に妥当するとお約束するものではありません。もし紛争に心当たりの方は、お早めに弁護士にご相談ください)

よく検索されるキーワード