過労死・過労自殺

働きすぎで,人が死ぬことがあります。

 

過労死,過労自殺という問題です。

 

「karoshi」という言葉は,そのまま英語辞典にも載っており,sushiやtempuraと同じく日本語がそのまま英語になるという,非常に不名誉な現象ですが,現に毎年100人以上の過労死認定がなされています。

 

働く人にとって,命にかかわる問題です。雇う会社にとっても,過労死や過労自殺の労災が起きたときの会社の賠償責任など考えると,放っておくわけにはいかない問題です。

 

過労死の原因はなんなのでしょうか。そして,過労死事故を防ぐために,会社はどうすればいいのでしょうか。

 

過労死とは?

そもそも過労死とは,なんでしょうか。

 

いわゆる過労死と呼ばれるものは,過重労働が原因となって脳血管,心臓疾患などを発症して死亡する場合を想定します。単に職場で死ねば過労死という訳ではなく,その原因がなんだったのか,を確認する必要があります。

 

もちろん,高血圧などの持病や本人の体力など,同じ時間の労働をしてもどういった症状が出るかには個人差があります。そのため一概には言えませんが,厚労省の判定基準によれば,概ね,発症前1か月に100時間又は2か月から6か月にわたって月80時間を超える時間外労働がある場合には,業務との関連性が強く過労死認定されやすいとされます。

 

過労自殺とは

また,過労自殺という概念があります。これは,過重労働に起因してうつ病など精神障害を来たし,自殺をするという場合を念頭に置きます。

 

厚労省の基準では,①認定基準となる精神障害の発病②発病前6か月間に,業務による強い心理的負荷がある事③業務以外の心理的負荷などにより発病していない事,というポイントで労災認定を行っており,詳細は厚労省のホームページでも紹介がありますが,裁判所も,基本的には同様の観点で労災の有無を判定していると言われています

 

過労死,過労自殺が起きたらどうすればいいか

まず,従業員の遺族の立場とすれば,労災の適用の有無を考えます。

 

上に述べたように,発症前に長時間の勤務があったとか,業務による精神的ストレスが大きかったと疑われる場合,まず会社に,労災申請の申し入れをします。

 

同時に,会社での勤務時間の実態を保全すべく,タイムカードや出勤簿の取得,会社内のコンピュータのログ記録や出退館記録などを保全するよう申し出ます。

 

また,会社によっては,従業員が死亡した場合の給付金制度を設けている場合もあります。労務担当者と面談をして,退職手続や会社との諸々の手続きの清算を行うと同時に,どういった遺族向けの補償制度があるか,確認をすべきでしょう。

 

そのうえで,労災保険給付や会社からの補償金では不満がある場合,すなわち会社によって過重労働が強いられて死亡したが保証される金額が少ないとなった場合には,損害賠償や慰謝料を求めて会社を提訴することを念頭に置きます。

 

そのためにも,早期の段階で,勤務時間の記録などは保全しておくのが良いでしょう。

 

会社が負う責任とは

過労死が起きて,労災保険で遺族の感情が満たされない場合には,会社を相手取って訴訟提起という事があります。

 

治療費や休業補償など,労災によって賄われる損害もありますが,労災によってカバーされない部分の損害として,死亡逸失利益や慰謝料といった名目の損害賠償が考えられます。

 

死亡逸失利益とは,その人が死亡しなければ得ることができた収入に相当する損失の補償を求めるという内容です。死亡時の収入と,年齢から導かれる残りの稼働年数をもとに,一定の生活費割合を控除するなどの計算で賠償額が定まってきます。

 

また,慰謝料とは,過重労働やこれによる死亡によって本人や家族の受ける精神的苦痛を慰藉するというものです。人が亡くなった辛さは必ずしもお金で解決できる問題ではありませんが,概ね,2500万円~3000万円程度の金額が認定される傾向にあります。

 

会社はどう対応すればいいか

まず,従業員の死亡と業務に関連性があるか,事実確認を行うべきです。

 

当該従業員の死亡原因を確認の上,直近の勤務時間や病歴などを照らし合わせ,死亡について会社に責任があるのかどうか見極めることになるでしょう。

 

また,遺族から上述のようなタイムカード等の保全の申し入れがあった場合には,基本的には素直に応じるべきです。

 

いずれ訴訟になる可能性も見据えると,この段階で調査に非協力的な姿勢を示すとか,記録を破棄して証拠隠滅を図ったかのような態度を取るのは,それ自体で裁判所の心証に影響します。

 

また,言うまでもないことですが,労災隠しは犯罪です。事実関係からして労災の疑いがある場合には,できるだけ遺族に協力し,労災申請などの手続きもサポートする方針で考えたほうが,得策でしょう。いずれ労基署から調査などが入ることになり,労災の認定が判断されます。遺族との補償問題発展する場合もありますので,できれば早い段階で弁護士にご相談いただくのが良いと思います。

 

労災を防ぐために

従業員が死ぬというのは,お金の面でもそうですが,遺族にとっても会社にとっても,とても大きな事件ですし,亡くなってしまった人はもう戻りません。会社としては,不幸な事故が起きないように,職場環境に配慮してやる義務があります。

 

まず,慢性的な過重労働,残業や,特定の従業員への過度な仕事の集中を避けるという,労務管理の基本を徹底しましょう。特に月100時間の残業があるとか,半年程度に渡って80時間ずつ残業があるという様な場合には,厚労省の労災認定基準に照らしても危険水準です。

 

職種にもよりますが,特定の時期に仕事が集中するとか,出張が多くなるなど,ある程度の過重労働は飲み込む必要があるというケースもあるでしょう。しかしこのような場合でも,個別の従業員が精神的,体力的に問題ないか,管理職が細やかにフォローをするとか,定期的に健康診断を受けさせるなどするべきでしょう。

 

なお,平成27年12月から,いわゆるストレスチェック制度が導入され,定期健康診断に際して過度なストレスがかかっていないか検査させる必要が生じました。働き方に問題がある従業員が発覚した場合には,できるだけ速やかに,職場の配置や業務の割り振りを見直すなどして,職場環境に配慮してください。

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