ブラック企業・ブラックバイト
ブラック企業とかブラックバイトという言葉が,よく知られるようになってきました。
ブラック企業の言葉の由来
ブラック企業という言葉が広く聞かれ始めたのは,もともとはインターネット掲示板「2ちゃんねる」で,仕事の指示が非常に多かったり,会社内の雰囲気が非常に悪いといった劣悪な環境の会社で働く人が,その環境の悪さを評して「ブラック会社」と表現したのが発端です。
ネットスラングだった言葉が広く認知されるようになり,暴力団と関係があるとか,残業代が払われないとか,パワハラを常態的に受けるなど,過酷な就労環境にある会社を総じて「ブラック企業」と呼ぶようです。
また,最近では,学生のアルバイトにおいても,非常に過酷なノルマやパワハラなどを行う,「ブラック・バイト」という言葉も登場してきています。
2015年9月に,しゃぶしゃぶなどを主力商品とする外食チェーン店のアルバイト学生が,脅迫めいたパワハラを受けるとか,店に生じた損害を自腹で払うよう強要されたとして,労働環境の改善や被害の補償を求める団体交渉を申し入れたという報道がされました。
脅迫やノルマの自腹強要などはもともと論外ですが,学生アルバイトにまでこのような過酷な就労が強要されているというのは,ブラック企業・ブラックバイトという以前に、社会全体で恥ずべき事態だと考えています。
ブラック企業やブラックバイトという言葉には,もともと法律的な定義はありません。
ブラック企業やブラックバイトについて世間では,ひろく「労基法を守らない問題企業」という認識でブラックという言葉が使われます。
ブラック企業の何が問題なのかという点に目をやると,その本質は,法のルールを無視して過酷な就労環境で労働者をこき使い,労働者の負担の上に会社(使用者)が利益を吸い上げるという構造にあります。
つまり,われわれ労働問題を扱う弁護士の間では,ブラック企業とは何かと言われたら,「若者を使い捨てにする企業だ」という表現をしています。
新卒や若年の労働者は,昨今の不景気の中で,非常に厳しい就職活動を強いられます。やっと就職できたら,多少不満があっても,そうそう簡単に転職するとか退職するという選択肢はありません。
一方会社にとって,若く体力のある社員は非常に優秀な,しかもすぐに「交換可能」な\労働力です。
この若者を,その体力が続く限りの時間の残業を強い,ミスが生じたら自腹で補てんさせ,上司の不満をハラスメントにしてぶつけます。会社と社員という立場の強弱がありますから,社員は自分の身を守ることができません。
身を守る事よりも,今日のノルマをこなすことで手いっぱいになります。
そして,長時間の労働,過労とストレスによって,心身を故障します。
過労鬱になり会社を去っても,会社を辞めたからと言って症状はなかなか回復しませんし,次の就職先だってそう簡単には見つかりません。
彼が辞めても,会社にとってはどうでもいいことです。次の若者を採用すればいいだけなのですから。
このように,若者を使いつぶして利益を得ている悪徳企業が,「ブラック」の本質だと言えます。
大学生のアルバイターであれば,当然,大学の授業にも出れなくなるとかテスト勉強ができないとかで,単位を落とすこともありますから,卒業や就職に関わる一生の問題です。
しかも大学生なので立場も弱く,身を守る術も知識もありませんから,まさにブラック企業にとってはカモといえます。
いうまでもなく,若者の未来がつぶされるということは,日本全体の労働力が減少するということでもあります。
貴重な若者の未来と引き換えに,会社は安い労働力を得るのですから,まっとうな人件費をかけている会社では太刀打ちできません。
結果,まともな企業は生き残れず,ブラック企業だけが社会にのさばる。そうなるとどこに就職してもブラック・・・
これは日本の悲劇というべき悪循環です。
就労環境を適正に保つということは,労働者にとってだけでなく,企業イメージも生産性も上がる事なので,本来,企業にとってメリットのある事なのです。
一時的に若者を使いつぶすような経営で売上げが上がったとしても,そのような不当な企業活動が,いつまでもうまくいくはずがないのです。
現実に,労基法を全て守っていると会社が成り立たないという声は良く聞きます。
しかし良いか悪いかは別にして,現実的に可能なところからでも,最低限の労働条件は確保するようにする義務が会社にはありますし,これによって会社自体も様々なリスクから守られることになるのです。
私はよく,労基法を守ることは会社にとっての足かせではなく,就労環境や生産性を上げるためのツールだという表現をします。
こういった視点を経営者が持てるかどうかで,ブラック企業を脱し、会社がこの先生き残れるかどうか,分かれ目だと思います。
目の前の利益のために働いた不正は,かならず,しっぺ返しがあります。お天道様は見ています。
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