「ももクロ」と男女平等についての思い付き(特に会社が新規採用する場合)
ももクロのコンサートへの注目
2015年10月31日に行われる,福岡県太宰府市で「週末ヒロイン」ももいろクローバーZのコンサートが,注目を集めています。
このコンサートが,観客を「男性」に限定していることが女性差別ではないか,という指摘があり,一部の弁護士からは憲法違反の可能性がある事態だ,とのコメントも報道され,ももクロのファン層特にインターネット上を中心に物議をかもしています。
女性差別とは
男性限定,女性限定というフレーズが出てくると,必ずといっていいほど出てくる話題が,「それなら女性専用車両はどうなんだ」「レディースデイは良いのか」,はたまた「男女格差の是正は当然だ」「レディファーストだ」という,なんだか全男性対全女性の骨肉の争いになるように議論が拡散していく内容です。
個人的には都内私鉄が採用している女性専用車両や映画館のレディースデイのメリットを享受できないのは悲しいという気持ちになることもありますが,ここで,ももクロのコンサート問題の論点を冷静に検討してみたいと思います。
ももクロのコンサート問題の論点
前提事実として,今回のももクロコンサートでは入場可能な客を男性に限定しています。同伴の子供なども含めてです。
ももクロは,女性5人のアイドルグループで,いくつものヒット曲を有するトップアイドルグループです。主なファン層は男性ですが,女性ファンも多数有しています。
このアイドルグループとしては,男性限定ライブを開催するのは今回が初めてではありません。過去には女性限定ライブを開催したこともありました。
というか,最近は男性限定,女性限定のライブを行うバンドやアイドルグループは,比較的多くあるように聞き及びます。
今回のコンサートについて,男性向けのライブ・ビューイング上映はないが,女性限定ライブ・ビューイングを後日開催予定とのこと。どうしてもももクロを見たければ,ライブ・ビューイングでの盛り上がりも可能であると。
太宰府市の大宰府政庁跡で実施されるとのことで,開催に市がかかわっている?との指摘があるようですが,どの程度のかかわりなのか(市が企画運営なのか,場所の使用を許可しただけなのか)は必ずしも明確には報道されていないので不明です。
男性限定ライブを行うことが違法・違憲なのか?
さて,上記の状況,男性限定ライブを行うことが違法・違憲なのでしょうか。
論点はいくつかあると思いますが,
①憲法14条の定める男女平等原則違反
②太宰府市の定める男女共同参画推進条例違反
といったあたりが,具体的な法規との抵触で問題となりそうです。
まず①憲法14条ですが,ご存じのとおり性別による差別を禁じた憲法規定であります。
しかし,私人間,つまり私企業と顧客との関係などにおいて,完全な男女平等の結果を強要する趣旨ではなく,不当な差別がある場合には,民法その他の規定の適用によって「社会的許容性を超える侵害に対し基本的な自由は平等の利益を保護」するというのが,憲法の解釈論として多数説であり,最高裁も支持するところです(三菱樹脂事件,昭和48年12月12日)。
また,②太宰府市の条例も目を通しましたが,必ずしも,主催者が顧客を選ぶ際に,性別で峻別すること,性差による取り扱いの違いを設けること自体を直接制限している規定はないようです。
そうなると,今回の男性限定コンサートが「違法」「違憲」とまで言えるかどうかは,女性アイドルのライブに当たり主催者が顧客を性別で選別するという本件行為が,社会通念上の社会的許容性を超えた不合理な取扱いに当たるか=民法上の不法行為になり得るか,という評価の問題になります。
評価の問題となると,価値観はそれぞれなのでしょうが,基本的には直ちに違法であるとか憲法違反の人権侵害とまでは言えないような気がします。
なぜならば,最近は男性客・女性客と分類してのコンサートもある程度実施されており,それ自体は社会通念として不当な男女差別とは認識されていないこと,ももクロのファン層は男性の方が多く,興行上の理由で男性をターゲットに絞って開催するという企業判断は一定の合理性が認められうること,女性ファンに向けてもライブビューイングという形でサービス提供が想定されており,一定のフォロー体制が用意されていること,といった点が,上記価値判断の評価根拠事実です。
弁護士の意見は・・・
既にだされている弁護士名でのコメントの中には,行政がかかわっている以上評価が変わってくる可能性があるとか,合理的な差別であることを立証する責任云々という話もあり,視点としては面白いとは思いますが・・・私企業の行う興行を軽々に違憲の疑いというのは軽率であり,いかがなものかと思います。
もしももクロライブが違憲・違法な人権侵害だというのであれば,見解の前提となっている行政のかかわりの度合いの強さについて,どこまで行政主催で男女差別を先導したのか,その目的は何なのか,そして私企業の主催する男性限定ライブの営業上のメリットや女性限定のライブ・ビューイングまで要されている本件でのフォロー体制をどう見るのかといった点について,具体的な論証が必要でしょう。
また,違法とか男女平等違反といっても,誰が誰に対して,なのかという視点を失念してはなりません。
最高裁も述べたように,憲法14条は私人間での男女完全平等までを強要する規定ではなく,これは行政が貸し出した土地や施設で行われる場合であっても同様でしょう。
コンサート主催者には興行上の計画や思想表現の狙いなどあるわけで,「公的な場所なんだから男女平等が崩されないようにすべて行政に管理させよ,でなければ憲法違反だ」というのは,暴論だと思います。
当事務所の見解
そのようなわけで,コンサートの意見説は立証に失敗しているとみることができますし,当事務所としては,本件ももクロコンサート「男祭り」に関しては,合憲・適法説を支持したいと思います。
ただし,もし仮に国会で,「今後ももクロのライブは男性しか見に行ってはいけない」というような法律でも作ったとすれば,これは明らかに憲法違反でしょう。立法府や行政といった公権力が,根拠のない不合理な男女差別をすることは,憲法が禁じるところというべきです。
会社が人を採用する、というときに気を付けること
この男性限定ライブと同様の話は,会社が新入社員を採用するときに,どこまで男性をとれるか,女性をとらないという選択ができるかという話にもつながります。
男女雇用機会均等法があるので,「当社は女性は採用しません」というのは,基本的には不当な態度といえます。
セクハラやマタハラなど言うまでもなく論外ですが,公平な採用の機会を,法は使用者に義務付けています(ただし,業種によってはその性質上,男女の差による採用差別を許されている内容もあります。
警備員など防犯・体力的な問題で男性に限るというのは合理的なものですし,芸術表現の性質上,男性や女性に限るという場面も当然出てきます。)。
しかし採用活動の結果,男性の数のほうが多くなったという結果自体は,法によっても非難されるものではありません。
女性の数が少ないなどの不公正な状況を改善するために女性だけ採用活動をするというのも,適法なものと考えられています。
こういった種々の規程を頭に入れたうえで,企業としては,採用活動を実施していく必要があります。
これからの日本社会は,人口減少などで徐々に経済規模の縮小が懸念されています。
とくに労働力減少は,すべての会社が直面する深刻な問題であり,採用活動には相応のコストが必要だとの認識も広まってきたようです。
しかし,安倍政権のかかげる経済政策が,まさに「女性の活躍する社会」であり「一億総活躍」という旗印で,眠っている女性の活力を引き出し,日本を活性化しようというものでした。
これからの社会にあっては,各企業でも,採用や昇進の段階で,男性優先的な先入観を捨て,男性社員も女性社員も公平に評価をすることで,会社の生産性が上がっていけば,これから会社といて発展することもできるでしょうし,TPPの混乱の中にあっても確かな人材とともにれば,会社が生き残ることも可能になるのかもしれません。
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