いまだになくならない「サビ残」(サービス残業)について
厚生労働省によると,2015年4~6月に長時間労働が疑われる2362事業場に対して監督指導を実施した結果,81.3%にあたる1921事業場で長時間労働や残業代未払いなどの労働基準法違反があったといいます。
会社に長く残るのが社員の美徳であり,上司よりも先に帰ってはいけない・・・などという昭和時代の観念を持っている会社がいまだにあるのかどうか知りませんが,やはり「残業代請求をするなんて愛社先進がない証拠だ!」という経営者の方も、少なからずいらっしゃると思います。
ですが,サービス残業において、はっきり言って,そういった考えは間違いです。
主に,2つの意味で誤っていると考えます。
一つは,法律違反の状態が正当化される,うちだけは大丈夫だという妄信は間違いだ,という意味です。
日本国内で事業を行う以上は日本の法律に従って経営をしなければならない,という一般論は,従業員との関係でも当てはまります。
サービス残業というような、払うべき残業代を支払わないとか,契約にない長時間労働・サービス残業を強要するといった行為は,法律違反なわけですから,当然,違反したら何らかのサンクションが発生します。
基本的に,サービス残業うんぬんに関わらず、所定労働時間を超えて働かせる場合には,賃金を追加で支払わないといけません。
契約上の労働以上の労働を提供しているのですから,ある意味当たり前の話です。これが,週8時間を超えると25%,深夜だと25%~75%といった割増率が発生するという,法律上の細かい計算式はありますが,どちらにしても,人を雇っておいてただで済まそうというのが,虫のいい話なのです。
タダより高いものはないという格言どおり,未払いの残業代の支払いを求める「残業代請求」事件が近年増加しており,労務管理の甘い中小企業にとっては突然の残業代請求に,首が回らなくなるという事態が発生しています。
二つ目の誤りは,「サービス残業や労基法違反が会社のメリットになる」という誤解です。
労基法を守っていたら会社なんかつぶれちゃうよ,アベノミクスで景気がいいのは大企業だけで,中小では綺麗ごとはサービス残業×なんて言ってられないよ,という声もあるかもしれません。
しかし,日本社会全体が縮小傾向にあり,全体の消費量も労働人口も減少していく中,企業にとって最も大事な資産の一つが,ほかでもない従業員です。
会社は,労働者なしでは売り上げを立てることができません。
しかもこれだけ従業員の権利意識が強まる傾向の中,最低限の法律的な権利すら守られないような会社に,誰が精いっぱい働いて,尽くしてくれるでしょうか。
むしろ,きちんと働く従業員には相応の待遇を施し,モチベーションと生産性を上げていく。せっかく育った優秀な人材が離職しないように,社内での活躍の場を与える。
人は石垣であり、城です。貴重な人的リソースを活用してこそ,これから企業が生き残る道もあるというものでしょう。
たしかに,今まで払っていない残業代を払うとか,サービス残業としてタダで使えていた残業時間がなくなるということは,短期的には会社の負担です。
しかし,たとえば労働時間の管理を見直すとか,だらだら残業するくらいなら定時までに仕事を切り上げるようにする,あるいは不定期な労働時間になりがちな職種であれば裁量労働制やみなし残業代の制度を導入するなど,合理的な労働条件でマネジメントすることで,サービス残業という言葉の中身をとらえて必要以上に会社に損が出るという事態を避ける方法はいくらでもあります。
これは私の持論ですが,残業代を請求するのが愛社精神の欠如なのではありません。サービス残業の強要が,会社のコンプライアンス精神の欠如なのです。
弁護士的には,会社は法律を守りましょう,そうすれば思わぬ落とし穴(残業代請求や過労鬱などの労災)を回避できますよ,とリスクを避けるという方向でのアドバイスをすることも多くありますが,労基法をはじめとする法律規定を守ること,従業員の利益や権利を守ってやることで,モチベーションも上がり,優秀な社員も離職せず,結果的に会社の生産性も上がるのではないか,などと最近考えているところですが・・・経営者の皆様は,どうお考えになるでしょうか。
きっと,「伸びる会社」と「伸びない会社」の社長さんとで,印象が変わってくるんじゃないかなんて,想像しています。
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